その日ひの夕ゆた方、家いの近ちくの防ぼ空壕へ行いきました。防ぼ空壕とは、空くう襲を受うけた際さに避ひ五歳さの妹とが大おきな声こで私わを呼よびました。「姉ねちゃん、来きて、来きて!早はよ、来きて!」どうしたのかと行いってみると、城しま山の方ほを指ゆさして言いうんですよ。「見みて、見みて、見みて!ものすごく綺きい麗よ」「みんな来きて!もう敵てき機もいないから、みんな来きて!」けれども、後あから浦うみ上が燃もえていたのだと聞きいて、真まっ赤かな火ひの中なで親ししかったいとこや、懐なかしい親しき戚が亡なくなったことを知しりました。遺いい体も見みつかりませんでした。と思おいます。父ちは怪けが我をして、頭あに包ほい帯をして、ずっと傷きと跡が残のっていました。「痛いい、痛いい。冷つたい、痛いい」うが難なするため、地じん面を掘ほって作つった穴あぐらです。いもうのお燃もえる炎ほの明あるさが稲い佐山を乗のり越こえ、本ほう当に綺きい麗でね。私わしもみんなに言いったんです。山やを越こして見みえたその景けき色は、原げく爆の印いう象の一ひつですね。今い振ふり返かれば、浦うみ上の燃もえる火ひは悲かしみの色いだったと思おいます。夜よになって、父ちが帰かってきました。三みし菱造ぞ船所の工こう場で鉄てう砲の弾たを作つっていたんだうくうごうたしらかんせらかたまろやんとんしょんばつびうせんじょうたうくうごううしゅうじょっぽずあ朗 読 者 (妹声)(妹声)(早苗の声)朗 読 者 (父 の ⑨たためたちもこえちるまくえまなろもたっしまとつたとかたやまさなかれえおい の え の れうびめんくな⑧かえい声)38
元のページ ../index.html#40