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すべての学びはくらしの中に。「わくわく子どもえん」の日々 第1話

2019年01月12日

朝9時前、糸島市の住宅地にある一軒の建物から、子どもたちの元気な声が周囲に響きわたっています。ここは、保育士の川口正人さんが運営する「わくわく子どもえん」。園庭も、遊具も、門も柵もない、一見ごく普通の家。そんな小さな保育園で繰り広げられているのは、川口さんと子どもたちの、自由に満ちた日々の暮らしでした。自身も6人の子どもを持つ父親で、40歳になって保育士の資格を取得。そんな川口さんが子どもたちと過ごす、型破りでとびきり楽しい毎日と、愛情に満ちた子どもたちへの思いについて、2話にわたってご紹介します。

1日元気で過ごすために、朝はストレッチや体操を

「わくわく子どもえん」(以下、「わくわく」)には現在、22人の未就学児が通っています。保育エリアは建物の2階のワンルームで、年齢などによる組み分けはありません。川口さんと一緒に子どもたちのサポートをしているのは、2人の「暮らしスタッフ」と、お昼ご飯やおやつを準備する「まかないスタッフ」です。

時計が9時を回ると、まずは川口さんの朝のあいさつ。その後、子どもたちは川口さんを囲んで全員で正座をし、足の指を広げる「ひろのば体操」や、大きく口を開けたり舌を出したりして鼻呼吸を促す「あいうべ体操」をします。

川口さん:
「人間の体を支える足の裏を鍛えることはとても大切。いまの子どもは裸足になることがほとんどないので、足の指が動きにくくなっています。そこで毎朝、こうして足の指をしっかり広げるストレッチをするんです。
鼻呼吸を促すのは、口呼吸によって空気がダイレクトに体内に入ってしまうと、子どもたちの体温が下がり、免疫力も弱くなってしまうから。毎朝欠かさず、スタッフも一緒にやっているんですよ。

ちなみに、『わくわく』では、個々の『名前』を大事にしています。子どもたちも、親御さんとも、お互いを下の名前で呼び合います。僕は『正人』なので、『まーとさん』です」

全員で「作戦会議」をして、いざ探検へ!

体を動かした後はいよいよ、今日、どこに“探検”に行くかを決める「作戦会議」がスタート。「わくわく」には、一般的な保育園のような、1日のカリキュラムや週案などはありません。その日に行きたいところ、したいことを”探検”と称して毎日、「作戦会議」で子どもたちと一緒に決めているのだそうです。

川口さん:
「近所の山や海、田んぼ、川、そのすべてが『わくわく』の園庭。そして道端で会う人たちはみんな“先生”です。
土砂降りの雨でも、かんかん照りでも、作戦会議で行き先が決まれば、もちろん外へ出ます。雨が降っていなければ、強い日差しが照りつけていなければ感じられない素晴らしさや、見ることのできない美しさが、自然の中にはたくさんあるんです。

探検の必需品は、布の頭巾と風呂敷。頭巾は紫外線を首までしっかり遮断でき、自分では見えないあご下で紐を結ぶというひと手間がとてもいい手先の訓練になります。風呂敷はマントに、袋代わりに、洋服代わりにと、子どもたちの工夫次第でいろいろな使い道ができるんですよ」

危険を伴う屋外でのルールはしっかり伝えて

それにしても、ほぼ毎日、20人前後の子どもたちを連れて外に出るというのは、スタッフにとって、かなり気を遣うことではないでしょうか。3歳から6歳という年齢差では、成長にも大きく差があり、歩く速度も、注意力も子どもによって異なります。通り慣れた道とはいえ、歩道が狭い道や車が多い道、信号機のある横断歩道など危険なところも当然あるわけで…。

川口さん:
「もちろん、子どもたちには外に出た時のルールをしっかりと伝えています。
先に歩いている子どもたちは、後ろを歩く子の声が聞こえなくなったらストップすること。横断歩道の前では必ず立ち止まり、声に出して左右を確認して渡ること。狭い道では1列になること。すれ違う人には大きな声であいさつをすること。危険なところへ行かせないのではなく、危険なところから身を守る方法を自分で考えることが大事なんです。
だから、探検に行くことで浮足立っている子どもには厳しく注意しますし、『今から外に行く』ことに対しての集中は大事にしています」

大人は最低限のことにしか口出ししない

この日の行き先は、作戦会議での多くの子どもたちのリクエストによって近くの山に決定しました。
「わくわく」を出発して数十分後、両側に田んぼが広がるあぜ道に入ると、子どもたちの元気がさく裂! 飛んだり走ったり、寄り道したり、植物を探したり、小川を飛び越えたり。この日はかなり冷え込んでいましたが、みんな寒さなんてへっちゃらな様子です。そして、そんな子どもたちをニコニコ見守る、川口さんとスタッフの方々。少々危険だなと感じても、その行動を止めたり、声を掛けたりするのは最小限にとどめておくようにしているのだとか。

川口さん:
「例えば、高いところから飛び降りようとしつつ、なかなか一歩を踏み出せない子どもがいたとします。その様子を見ている僕らはハラハラするのですが、大きなけがをする心配のない場所なら、『危ない!』などと声を掛けることはしません。僕らが制止してしまうと、その子の判断力を遮ってしまうことになるからです。

大切なのは、子ども自身の『わたしは無理』『ぼくは飛べる』という判断を大切にすること。もし、飛んで転んでしまっても、多少のすり傷ならなんてことはありません。その傷はきっと、子どもの心を大きく成長させる糧になるでしょう。

本来、子どもたちには危険を察知する本能が備わっています。『ここは危険かも』『ケガをするかも』という緊張感を子どもたちはちゃんと持っているし、だからこそドキドキもしているんです。でも、そのタイミングで大人が声を掛けてしまうと、子どもは自分の判断よりも、大人にいいところを見せようとする気持ちが働き、つい無理をしてしまうことがあるんです」

自然が大好きな、たくましい子どもたち

それにしても、「わくわく」の子どもたちはみんな、本当にたくましい。どの子も物怖じせずにどんどん自然の中に溶け込み、食べられる雑草を見つけるとパクパク口に入れたり、斜面に咲いた花に近づいて匂いを嗅いだり、葉っぱの裏側にいる虫を捕まえたり…。

川口さん:
「今のようにモノがなかった僕らの子ども時代は、自然が一番の遊び相手。自然の中には面白いことやワクワクすることが無限にあって、僕らはその中で、あれこれと自分たちで遊びを生み出していました。
そう、子どもたちは楽しいことを見つける天才です。
だから、探検に行っている時に、僕らが子どもたちと遊ぶことはありません。ひたすら見守るだけです。

『きれいでしょ』とか『おいしいでしょ』などの声掛けもしないようにしています。それは、子どもに『きれい』『おいしい』といった大人の感情を押しつけているだけだからです。子どもが『おいしいね』と言えば、そこで初めて『そうだね』と言ってあげればいいんです」

子どもたちの意思に任せ、指示や命令はしない

川口さんは、子どもへの接し方について、さらにこんなふうに続けます。

川口さん:
「僕から子どもたちに指示や命令をすることはありません。ここは、子どもに『やらなければいけないこと』を教えるのではなくて、子どもたちが『やりたいこと』を自由にやらせる場所でありたいのです。
大人が『あれはだめ』『これをするな』などと言えば言うほど、子どもは抑圧されてしまいます。とはいえ、それは決して野放しにすることではないんですね。『ここは子どもの意思に任せるべき』『ここは僕らが判断すべき』と、大人がその区別はきちんとつけて子どもに接することが大切だと思います。

最近は、きょうだいの人数が少なかったり、子育ての情報があふれすぎていたりで、親が子どもに目を向けすぎているのではないでしょうか。その分、子どもも『これをしたら親に怒られるのではないか』と、大人の顔色を過剰にうかがってしまう。でも、それでは子どもが窮屈でかわいそう。子どもはもっと自由であるべきですし、大人は子どもをもっと信じるべきです」

子どもはいろいろなことがわかっている

川口さん:
「子どもを信じるというのはつまり、子どもの主体性を大事にして、しっかり見守るということです。
例えば今日のような寒い日でも、僕らは探検に行く前に、子どもに上着を着て行きなさいとは言いません。もちろん、『上着を着ないと寒いかもよ』という声掛けはしますが。でも、そこで着るか着ないかはその子の判断。『寒い』という経験をすれば、次からはきちんと自分から上着を用意するようになるでしょう。

大人は、子どもは何もわかっていないと思いがちですが、子どもって口には出せないけれど、いろんなことを考えているし、わかってもいるんです。子どもえんでは、そういう子どもたちの感覚や感性を生かしたり、さらに引き出したりといった体験を、自然というフィールドの中でめいっぱいやらせてあげたいと思っています」

「暮らしの中に学びのすべてがある。喜怒哀楽のすべてがある。そして人はそれを味わい尽くせる力がある。それは特別なことじゃなく、季節を感じながら一緒に暮らすこと…」

川口さんのそのような考え方をベースに、独自の活動を行っている「わくわく子どもえん」。引き続き2話でも、「わくわく」の様子や川口さんのお話をご紹介します。

編集:神代裕子 文:丸山砂和 写真:川上信也

Profile

川口正人(かわぐちまさと)さん
わくわく子どもえん園長、保育士。サラリーマンを経て40歳で保育士の資格を取得し、保育園や学童にて保育に携わる。2012年、自宅の庭先にテントを張り、園児3人から「わくわく子どもえん」をスタート後、現在地に移転。利用する子どもの数も増え、現在は福岡市内から通う子どもも。私生活では四男二女の6人の子育てを経験。「妊娠、出産、授乳以外のすべての育児を経験しました。もちろん家事もこなします」。
わくわく子どもえん:http://wakuwakuhoiku96.wixsite.com/wakuwaku

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