コラム

子どもが繰り返し同じ話をする理由は?生きる力を育てる秘訣

2018年07月03日

より良い親子関係をつくるためのプログラム「アクティブ・ペアレンティング」のトレーナー・野口紀子さんが、子育てが楽しくなる話を綴ります。


 

親戚が集まっていた時のことです。その中に4歳の女の子がいました。

楽しそうに遊んでいた彼女が、突然おじいちゃんのもとへ行って「あのね、歯が痛いの…今歯医者さんに行っててね…」と話しかけました。おじいちゃんは読んでいた新聞から目を離さずに「ああ、そうね、そうね。頑張って治療しないといかんねぇ」と答えました。

次に茶碗洗いをしていたおばあちゃんのもとへ行き、「わたし、歯が痛いの…」と言いますが、おばあちゃんは手を止めずに「あらま、そうね。ふぅ~ん」と返事をします。今度はお父さんに、同じように言いますが、お父さんは「ああ、わかってる、わかってる」。すると、お母さんが横から「だから、今治療に行ってるんでしょ。そんなに何度も言わないの!」と、彼女を止めました。

この子はどうして、相手を変えて同じことをしつこく言って回るのでしょうか?
大人は「説明」をし、「説得」をしますが、それではこの子の「痛い、痛い」はどこへも飛んで行かないからです。

私はその子のそばに行き、「私にも見せてもらっていい?」と聞きました。すると、その子は少し恥ずかしそうに、でもうれしそうに小さな口を開け、痛い歯を指差して教えてくれました。

「この歯なのね。そうか、痛いんだね」。私がそう言うと大きく頷きます。
「確かにこれは痛そうね…。それで歯医者さんに行って治療してもらっているのね」と言うと、また大きく頷きます。私も「そうか、そうか…そうなのね」と頷きます。

たったこれだけの他愛ないやり取り。
でも、その子はそれっきり歯の話はしなくなりました。「痛い、痛い」はしっかり飛んで行ったようです。

小さな子どもに日々起こる出来事は、その一つひとつが新たな冒険(チャレンジ)です。自分の身に起こったこと(この場合は、歯が痛いこと、それで歯医者に通っていること)に対して少なからず不安を抱えています。

その時に、そのままを受け止めてくれる人がいると「これは大丈夫なのだ。良いことなのだ。自分の成長に必要なことなのだ」とその冒険を受け止める力が付きます。これをアドラー心理学では「勇気づけ」と言い、本人の中から湧き上がるエネルギーが、背中を押してくれるのです。

子どもは、そのままを受け止めてくれる(わかってくれる)大人に出会ったとき、愛(安心感)を感じ、生きる力が高まります。逆に言うと、「そのような大人に出会うこと」がその子を幸福にします。どうか子どものささいな話も真剣に、優しい包容力のあるほほ笑みとともに、聞いてあげてください。

編集:神代裕子 イラスト:ムツロマサコ

profile

野口紀子(のぐちのりこ)さん
心理学をベースに、さまざまな考え方や技法を取り入れて、より良い親子関係をつくるためのプログラム「アクティブ・ペアレンティング」のトレーナー。25年間で延べ5000人以上の親御さんたちに子どもとの接し方などを伝えている。自身も3人の子どもの母。親子関係・人間関係の悩みに寄り添って改善する「トータルファミリーカウンセリング」を開設。「NPO法人ペアレント・スキルアップ福岡」の理事。

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