コラム

「親の都合」と「子どもの都合」

2018年05月11日

より良い親子関係をつくるためのプログラム「アクティブ・ペアレンティング」のトレーナー・野口紀子さんが、子育てが楽しくなる話を綴ります。


 

ある公民館に4人の若いお母さんたちが集まり、子育ての学習会をしていました。そばでは4人の2歳児たちが、屋内遊具やお絵描きで自由に遊んでいます。学習会は午前中の2時間。終了後は、各自が持参しているお弁当をテーブルに広げて、親子で一緒に食べる予定でした。

その子どもの一人・Aちゃんが、学習会の終了30分前に突然自分のカバンからお弁当包みを出し、テーブルに持ってきて開け始めました。慌てたのはAちゃんのお母さん。「え~!勝手に何してるの!?」と思わず大きな声をあげました。

Aちゃんは一瞬ひるみ、怖がるような、困ったような目でお母さんを見ていました。お母さんは少しびっくりしただけで、怒るつもりはなかったと思います。でも、大きな声は子どもに恐怖を与えてしまうので、Aちゃんもとまどっていました。

たまたまAちゃんのそばにいた私は、静かな声で優しく、はっきりと、Aちゃんに「おなかがすいたので食べたくなったのね」と話し掛けました。Aちゃんは大きくうなずきました。

私が「そうか。おなかがすいたものね、食べたいよねぇ…。あのね、お母さんたちのお勉強が終わったらみんなで一緒に食べようと思っているんだよ」と言うと、Aちゃんは大きくはっきりした声で「待つぅ!!」と言ったのです。

それを聞いたお母さんたちは4人とも口をそろえて「おお!」と思わず感嘆の声を上げ、一斉に「ありがとう!」とAちゃんにお礼を言いました。Aちゃんは「どういたしまして」と言わんばかりにうなずいて、お弁当包みを自分のカバンにしまい、また遊び始めました。
こんな時、「我慢できてお利口ね」なんて上から目線の言葉は出てきません。ただただ、「ありがとう」です。

親には親の、子どもには子どもの都合や意思があるのが当然ですが、子どもの都合や意思はとかく「わがまま」と称され、親は全く気付かずに自分の都合を優先しがちです。
親が子どもの都合に合わせる以上に、子どもが親の都合に合わせてくれていることもたくさんあります。
幼い子どもといえども、一人の意思ある人間。そのことを念頭に置いて接すれば、伝える言葉も変わってくるはずです。

幼くとも私たちの都合を理解してくれた、このわずか2歳のけなげな「協力」に、心から感謝するばかりでした。

編集:神代裕子 イラスト:ムツロマサコ

profile

野口紀子(のぐちのりこ)さん
心理学をベースに、さまざまな考え方や技法を取り入れて、より良い親子関係をつくるためのプログラム「アクティブ・ペアレンティング」のトレーナー。25年間で延べ5000人以上の親御さんたちに子どもとの接し方などを伝えている。自身も3人の子どもの母。親子関係・人間関係の悩みに寄り添って改善する「トータルファミリーカウンセリング」を開設。「NPO法人ペアレント・スキルアップ福岡」の理事。

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